腎不全・透析とならないために 〜 高血糖が及ぼす腎障害 〜

腎臓には、糸球体という毛細血管が集まった組織があり、血液をろ過して老廃物を尿として排泄します。腎臓の働きが低下してくると、血液中に不要なものが溜まり、逆に必要なものが尿に混ざって出ていってしまいます。健康な人の場合、蛋白は尿に混ざりませんが、糖尿病の治療が不十分な状態が続いていると、初期に糸球体の過剰ろ過がみられ、その後、分子量が小さい蛋白が尿へ出てきます(微量アルブミン尿)。さらに進行すると尿蛋白が増加していきます(顕性アルブミン尿)。この蛋白の漏出は糸球体へも負担となり、徐々に腎機能が低下し、最終的に腎代替療法(透析)が必要な腎不全状態に至ります。近年、透析導入に至る原疾患の第1位は糖尿病であり、全導入患者の約4割を占めています。
一度低下した腎機能を回復することは困難であるため、腎予後の改善には早期診断と早期の治療介入による腎機能低下の予防が重要になります。

【 腎臓の構造と機能 】

腎臓の構造と機能
腎臓の「糸球体」は血液をろ過する“ふるい”の役割をしています。糸球体よりこし出された原尿のうち、体に必要なものは下流の「尿細管」で再吸収し、不必要なものが尿となります。糖尿病で高血糖の状態が続き糸球体が傷むと、ろ過機能が低下し、不要なものが血液中に溜まってしまいます。

【 慢性透析患者の主要原疾患の割合 】

 慢性透析患者の主要原疾患の割合
日本透析医学会によると、2017年12月31日末時点で日本における透析患者数は前年比1.5%増の33万人を超え、糖尿病腎症に起因する透析患者数は年々増加していることが分かっています。

腎症の診断
〜 近年、典型的な経過をたどらない「糖尿病性腎臓病」が注目されています 〜

現在、腎症の早期診断法として尿中アルブミン測定が使用されています。これは、微量アルブミン尿の出現が、その後の顕性アルブミン尿への進行や腎機能低下のリスクになるとの知見に基づいています。したがって、定期的に尿中アルブミンを測定することにより早期に診断し、治療介入することが推奨されています。
しかし近年、アルブミン尿を呈さずに腎機能が低下する例や、アルブミン尿の有無にかかわらず急速に腎機能が低下する例も報告されており、糖尿病に合併する腎障害の多様性が注目されてきています。この臨床病態の変化には、血糖降下薬、降圧薬(ARBやACE阻害薬)、高脂血症薬(スタチン)などに代表される治療が患者の生命予後の改善ならびに高齢化につながり、従来の糖尿病の変化に、動脈硬化性病変の要素が加わった可能性を反映していると考えられています。
このような背景より、古典的な「糖尿病性腎症」から糖尿病による腎障害の多様性を表す「糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease: DKD)」と呼称が変わってきています。

【 糖尿病性腎臓病と糖尿病性腎症の概念 】

糖尿病性腎臓病と糖尿病性腎症の概念
顕性アルブミン尿(たんぱく尿)が出ないままGFRが低下することもあり、従来の古典的な糖尿病性腎症を包括した「糖尿病性腎臓病(DKD)」という疾患概念が提唱されました。

なお、腎機能は糸球体濾過量(glomerular filtration rate: GFR)で評価され、その評価方法には簡便な推算糸球体濾過率(eGFR)が広く用いられています。血液検査のクレアチニン値と年齢、性別より算出式により腎機能を推算します。

重症化を未然に防ぐために

糖尿病性腎臓病(DKD)の重症化を予防するためには、生活習慣の修正ならびに血糖、血圧、脂質管理の各コントロール目標を達成する集学的治療が大変重要です。

【 糖尿病性腎臓病(DKD)重症化予防のための目標 】

1. 生活習慣の是正
・ 適切な体重管理
・ 運動習慣の推奨
・ 禁煙
・ 塩分・たんぱく制限食、アルコール制限
2. 高血糖の是正
・ HbA1c 7.0%未満
3. 高血圧の是正
・ 130/80mmHg未満
・ 糸球体高血圧の是正・蛋白尿の減少のために、RA系阻害薬を第一選択として考慮
4. 血清脂質異常の是正
・ 悪玉(LDL)コレステロール < 120mg/dL(冠動脈疾患がある場合 < 100mg/dL)
・ 善玉(HDL)コレステロール ≧ 40mg/dL
・ 中性脂肪 > 150mg/dL(早朝空腹時)

糖尿病腎症の病期は第1期から第5期に分けられています。進行すると改善することが難しくなることから、早い段階より適切な治療を受けることが重要です。

【 糖尿病腎症の病期 】

糖尿病腎症の病期
重症度は原疾患、GFR、タンパク尿区分を合わせたステージにより評価します。緑色のステージを基準に、黄 → オレンジ → 赤の順にステージがあがるほど死亡、末期腎不全、心血管死発症のリスクが上昇します。

参考文献:
日本内科学会雑誌 Vol.108 No5, 2019

監修:

医療法人みなとみらい 逗子金沢内科クリニック 院長

谷 祐至 先生

最終更新日:2019年12月16日